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AVENSIS DIARY

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書評ボランティア

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公共施設の図書コーナーの本の紹介をするボランティアです。

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2005.12.22

『家族とこころ』 

浅川千尋、千原雅代、石飛和彦 共著  世界思想社 


「家族」とは何かということについて、法学、臨床心理学、社会学の専門的立場から横断的に問い直す本である。法律の世界では、「法は家庭に入らず」という言説があり、警察が家族の問題に介入することには消極的という歴史があった。家族は公の場とは隔てられた、特別な場所という認識が法の世界ではまかり通ってきたためである。
それでは、家族というものは何なのか。当たり前のようでいて、簡単には答えられない問題である。臨床心理学からは、日本人は夫婦関係でも「お父さん、お母さん」と呼び合う子供を中心とした家族観があり、親子が一体化しやすいと説かれる。融合するがゆえに距離をとりにくく、真の対話ができない。結果として本音が出せずに暴発することがあるというシステムの説明が明快になされている。
 最後に社会学と臨床心理学をつなぐものとして、ある自閉的な六歳の子のカウンセリング例が例示されている。それによると六歳の子のなかにも理想とする家族像があって、現実の家族との違いに自閉という形で母親と闘っていたのだと説明される。実はこの家族というもの自体、近代になってからできた幻想、あるいは過渡的なものだと、社会学からの知見が述べられている。「家族」というものについて私たちはよく知っているつもりでいるが、イメージとしての家族と現実の家族との違いに気づかせ、家族というものについて今一度考え直す契機を与えてくれる本である。


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